同じく、文面2。

 『貸本マンガRETURNS』(ポプラ社刊)という本が出た。「貸本マンガ史研究会」の六人のメンバーが書き下ろしで執筆したものだ。
 わが国の高度成長期前、つまり、〈戦後〉という意識が依然、潜在していた時期の、十年にも満たない「貸本マンガ」隆盛期に焦点を当てて論じた本書は、戦後史を視角にした尖鋭な文化論だといっていい。わたし自身のことでいえば、ほぼリアルタイムで、白土三平の大著『忍者武芸帖 影丸伝』を貸本屋から借りて読了した。そして、当時、中学一年生だったわたしにとって、どんな文学作品や映画作品よりも大きな影響を与えてくれた物語作品だった。その後、白土作品を読むために『ガロ』を購読し、つげ義春、つげ忠男、林静一といった漫画家を知ることになり、わたしのアドレッセンス前期は、いわゆる『ガロ』系漫画に耽溺した時期だった。
 ところで、この本を契機として、ネット上である論争が生起している。NHKBSで放映されていた、漫画作品をテーマにした討論番組でたびたびコメンテーターとして登場している夏目房之介が、自身のブログ上でこの本の、〈戦後〉をタームにした捉え方に疑義を呈したのだ。わたしは、ややこじつけがましい夏目の視線は無視していい低レベルのものだと思ったのだが、当事者たちは、そうはいかないようだった。執筆者たちと夏目との激しい応酬が交わされていくことになった。夏目に数多くの漫画に関した著作があることは知っていたが、わたしは一冊も目を通したがことがない。BSの番組での夏目のコメントのあまりのつまらなさ(どうでもいいコマ割りに対するコメントが象徴していた―もちろん、コマ割りは漫画論の重要な視点ではあるが、夏目の論点は、自身の分析にただ悦に入っているといった空疎なものであった)に、辟易したからだ。
 ようするに、この論争、漫画に対するイノセントなスタンスの違いだといえる。「貸本マンガ史研究会」のメンバーは、ほんとうに漫画(貸本マンガ)というもの対して愛惜溢れる思いを抱いているのだ。夏目には、それがない。漫画評論・研究をただ生業にしているだけの視線しかもっていないのだと、わたしはみている。(06.4.23記)

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