重村智計 著『日韓友好の罪人たち―学問的試論のすすめ
(「図書新聞」16.10.29号)

 わが列島と半島の隣国は、近くて遠い関係にある。だが、約一五〇年前までは、大陸の王国とともに友好なる繋がりを長きにわたって続けてきた関係にあったのだ。アジアの片隅の列島国家は、断絶させていた欧米列強との関係を修復した途端、アジアの盟主たらんと明治近代を疾駆していった結果、戦後七〇年間、半島の隣国との了解関係は、絶えず齟齬を生起し続けている。
 毎日新聞論説委員としてテレビなどで、歯切れのいいコメントと解説をわたしたちに提示し続けてきた著者による、日韓関係の過去から現在、そして未来へと向けた論集が、本書だ。そもそも、日韓の関係は、一五〇年の間に複雑な情況的事柄を包含しながら横断してきたことで、問題の所在をなかなか切開しにくくしてきたといえる。どこか、一点、特化してフォーカスしていくとするならば、わたしは、日清戦争を挙げる。朝鮮を清国の圧政から解放させるという偽善的な旗印で開戦し、結果、韓国併合という半島の統治体制を構築し、日露戦争、満洲事変を経て日中、日米開戦へとなだれ込んでいった。こうした、わが列島国家の敗残の歴史を、いま一度、深く考えていくべきだと、わたしなら、いいたいと思う。
 「『太平洋戦争の起源は日韓併合に遡る』と私は考えている。この認識は、日本人の常識にはなっていない。真珠湾攻撃(略)から、およそ三〇年四ヶ月前に、日本は韓国を併合した。この結果、国際社会の尊敬を失い、米英と中国、ロシアに『恐怖』を与え、彼らに敵対する『脅威』と認識された。(略)日韓の千年に及ぶ長い歴史は、『日本が朝鮮半島に軍事的、政治的に深く関わること』を戒めている。(略)韓国併合では、独立から七〇年が過ぎた今もなお恨まれる。/隣の国を併合し、植民地にしてはいけなかった。」
 三〇年以上にわたった統治した側と統治された側という列島と半島の関係は、なぜ、その後、七〇年経ても、親近なるものへと転換できなかったのだろうか。著者は、エドワード・サイードが提示した「オリエンタリズム」という概念を援用して、「日本的オリエンタリズム」という視線で論断していく。
 「私がこの本で取り組むのは、『国際政治としての韓国・北朝鮮問題』である。『国内問題としての朝鮮問題』ではない。『朴槿恵はひどい』、『金正恩は普通じゃない』と言って、日本人に同意を求めて干渉させようとする。/これが、『日本的オリエンタリズム』を生む。長年に渡り、雑誌『世界』と日本の多くの学者や知識人は韓国を『南朝鮮』と表記してきた。韓国に対する差別の表現であった。これこそが、『日本的オリエンタリズム』の起源である。(略)私は『日本的オリエンタリズム』による差別を指摘し、『差別と蔑視意識の解決』を目指している。(略)朝日新聞が『慰安婦報道』で謝罪した原因は、『新聞記者が運動家になった』ためである。また、『運動を真実と勘違いした取材力の弱さ』と言うしかない。/韓国の反日には、(略)多くの社会問題と『韓国病』が存在しているが、日本人には理解できない。(略)『日本語と韓国語は、語感と感情が微妙に異なる言語だ』との留保が常に必要だ。日本では、韓国や北朝鮮について、あたかも、自分の国かと勘違いして語る風潮が強かった。日本人が韓国の指導者を口汚く非難する。この心理の背後には、日本人の差別や蔑視意識がある。私は、これを『日本的オリエンタリズム』とする学問的分析を明らかにしてきた。/一方、韓国が求める『歴史認識』や『慰安婦問題』、『独島問題』は、『韓国的オリエンタリズム』であるうえ、韓国語の表現なのだ。」
 韓国との関係のなかには、確かに、北朝鮮を長い間、評価する一部ジャーナリズムと左翼的知識人たちの言説に影響された「差別と蔑視意識」があったし、独裁政権や軍部やKCIAなどの影の権力構造によって、非民主国家という偏狭な視線で韓国を捉えていたことは、否定できない。だが、著者の鋭利な論断は、「韓国的オリエンタリズム」というものをも浮き彫りにしていくことにある。つまり、わたしたちは、著者が提示する「日本的オリエンタリズム」と「韓国的オリエンタリズム」は、パラレルなものであることに喚起されて、ひとつの通路を見出すことを可能にしているといっていい。
 「日韓の歴史対立には、『歴史観の違い』が大きい。韓国は『歴史の教訓』を強調するが、日本は『歴史の教訓よりも事実としての理解』を強調する。『日本に支配された国民』と『戦争に敗れた国民』の歴史に対する見方は異なるのだ。」
 実は、「教訓」の源は、幻影に満ちたものであることを知るべきであり、「事実」というものは、いつでも都合よく改変されるものだということを認識すべであるというのが、さしあたって、わたしの捉え方だ。だが、列島と半島のパラレルな関係は、断絶させることのできないものだということだけは、確かなことだと強調しておきたい。

風土デザイン研究所刊(16.9.15)

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