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2017.08.26 Saturday

西脇詩の世界を「再発見」                           ―――――西脇の生涯における「二度の大きなターニングポイント」

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    加藤孝男、太田昌孝 共著『詩人 西脇順三―その生涯と作品
    (「図書新聞」17.9.2号)

     わたしは、四十六、七年ほど前、たまたま偶然、小千谷を訪れ、西脇の生家を見ている。その頃、もちろん西脇順三郎(一八九四〜一九八二年)という名前は認知していたが、作品にはまだ接していなかった。現代詩はかなり読んでいたが、なんとなく敬遠していたというのが、正直な思いであった。後年、自分から進んでというのではなく、必要があって『ambarvalia』(一九三三年刊)を読む機会があり、その詩世界にたいし率直に共感を抱いたといっていい。その後『旅人かへらず』(一九四七年刊)を読み、戦時下を挟んでの空白期を経て、戦後、刊行された詩集の世界に親近感を持つとともに、かつて訪れたことがあった小千谷という場所を想起しながら様々なことを感受していったことになる。
     本書は、「新潟日報」紙に二〇一四年六月から一五年一〇月まで連載されたものを纏めたものだという。なによりも、ひとつの機縁を思わないではいられない。連載を始める前、二人の共著者はともに、「小千谷とロンドンという西脇の精神形成において重要な場所へ赴任することになった」(加藤孝男)のだという。本書は全4章の構成で第4章は、「西脇順三郎の詩の魅力をあじわう」と題して詩作品をめぐって論及している。第1章から第3章までを「西脇順三郎の魂にふれる旅」として、故郷・小千谷、留学先の英国、そして、帰国後、東京と最後の場所でもあった小千谷との往還にふれながら、その生涯を描出していくわけだが、著者たちは、西脇と同じ場所にいたという感慨が、「魂にふれる」といういい方に象徴化させていると理解できる。
     西脇に『超現実主義詩論』(一九二九年刊)や『シュルレアリスム文学論』(三〇年刊)の著書があることで、わたしが距離感を持ったことの所以だったように思う。ヨーロッパや日本のシュルレアリスムが、思想運動的な色彩を潜在させていくわけだが、西脇の詩表現からは、どうしてもそのことが繋がらないように感じたからだ。
    「詩を作るということは、時代感覚に鋭敏になるということである。『シュルレアリスムは一つの憂鬱である』とも西脇は述べた。そもそもこの運動は、フロイトの精神分析に影響を受けて、人間の無意識や夢といったものを描くことで、社会にからめとられてしまった意識を解放するところに意義を見いだしている。/その作詩法は、時に、無作為に言葉を連ねていくというような方法によった。しかし、西脇はこうした無意識によりかかった作詩法を批判し、独自な『超現実』の考え方を導いている。西脇が繰り返し述べるのは、人間がもっている習慣化した意識を打ち破り、新たなヴィジョンを描くことであった。そのために、遠く離れたイメージを連結して、詩を作れと言った。」(加藤孝男)
     この加藤の論述によって、わたしは、自分自身の異和感を払拭するとともに、「遠く離れたイメージを連結し」た『ambarvalia』(ロンドンで知りあい結婚したマージョリ・ビッドルと離婚した翌年の刊行ということになる)という詩集を直ぐに想起することになる。
     西脇の生涯に視線を向ける時、「二度の大きなターニングポイント」があり、ロンドン時代と、小千谷へ疎開することになった「四四年から四五年にかけての九カ月」だったとして、太田昌孝は、次のように述べていく。
     「私自身、四〇回ほど当地を訪れたが、小千谷を深く知れば知るほど、その民俗、伝統、自然が蔵する豊かな魅力に心打たれた。そして、この小千谷で一八年に及ぶ、青少年時代を過ごした西脇の精神的基層には、ほぼ無自覚的にこの雪深い町が持つ諸要素が滋養のように堆積していったのではないかと考えるようになった。(略)折口によって掘り起こされた日本民俗への関心が、実は自身のなかでたしかに堆積していたことを、西脇は小千谷での疎開生活においてまさに『再発見』した。『西洋と東洋の融合』という独自の詩的アラベスクを完成させることになるのである。」
     もちろん、ここで太田が指摘しているのは、『旅人かへらず』を想起してのことである。折口を始め、柳田國男との交流があったことを、わたし自身は、それほど重要視してこなかったが、大田の論及には承服せざるをえない。わたしは、一度しか小千谷に訪れたことはないが、それでも、自分が生まれた雪国・秋田と共通する情感を喚起されたことはいうまでもない。
     戦時下に詩は書かず、当然、戦争賛美詩とは無縁なかたちで、戦後、『旅人かへらず』を著したことの意味は大きい。
    「戦争であらゆるものが失われてしまった日本人にとって、想像力さえあれば、一篇の詩からでも夢を見ることができたのである。」(加藤孝男)
     こうして、本書は、わたしに、西脇詩の世界を「再発見」させてくれたといっていい。

    (クロスカルチャー出版刊・17.5.31)

    2017.11.09 Thursday

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