花部英雄 編『ジオパークと伝説』
(「図書新聞」18.11.17号)

 ジオパークのジオ(Geo)とは地球・大地を意味し、パーク(Park)は、文字通り公園のことである。本書の編者、花部英雄によれば「科学的に貴重で景観にもすぐれている地質資源を含む公園」を、二〇〇四年にユネスコが、「世界ジオパークネットワークによる審査を経て『世界ジオパーク』として認定し」たことで、ユネスコの文化遺産、自然遺産とともに多くの人たちに、ジオパークというものが知られるようになったことになる。本書では、貴重な景観というものは、「長い時間をかけて風化や浸食、運搬、堆積などの諸現象によってダイナミックにできあがった地形であ」り、「そこには、動植物の化石や植生、土壌、気象や水などの生態的要素が加わって構成されてい」て、そのような「自然環境のもとで生活してきた人々がかかわり作り出した歴史的、文化遺産で」あると捉えたうえで、「ジオパークを伝承的な立場からとらえ」(花部「序・ジオパークと伝説」)ていこうするものである。
 日本において、世界ジオパークとして認定されているのは九地域であり、日本ジオパークネットワークによって認定された日本ジオパークは全国に四十三地域ある。本書で取り上げているのは、一〇年一〇月に世界ジオパークに認定された山陰海岸ジオパーク(丹後半島から鳥取県まで)である。この地域から喚起される多様な伝承・伝説を各論者は丹念に辿りながら人々の暮らしの深層を掘り起こしてく。
 例えば、「京丹後市網野町掛津にある琴引浜」は、「『鳴き砂』でも有名な観光地である」が、「サザエにまつわる伝説がある」という。山陰海岸は、出雲から地続きであるから、大国主命にまつわる伝説があるのは理解できる。琴引浜の近くにある白滝神社は、「大国主命がまつられてい」て、その淵源は、大国主命が舟でこの地に移動してきた時に「舟底にあいた穴をサザエが塞いで沈没を防いでくれた」(花部「海岸地形とサザエ救難伝説」)という説話に由来するようだ。「サザエ救難伝説」とは、論者がいうように、「おおらかな話で」、海岸に住む人たちと海の生物が強い繋がりを持っていることの表れのような気がしてならない。
 大国主命といえば、誰もが、「因幡の白兎」の説話を思い起こすはずだ。鳥取市白(はく)兎(と)にある白兎海岸が伝説の場所として知られている。「白兎が大国主命と八上姫が結ばれると予言したことから、白兎海岸の近くに鎮座する白兎神社が縁結びの地とされ、今は有名な観光スポットになっている」(後藤若菜「海と山の白兎伝説」)という。鳥取県八頭町福本にも白兎神社があって、山間部に白兎伝説というのは、意外な感じを持つことになるが、後藤は次のように論述していく。
 「福本の付近には、長く連なる中山の尾根に、驚くほど巨大な岩石が存在した。また近年は減ったが、昔は兎は山に多くいて、地域の人々には身近な動物であった。(略)海の白兎地域の白兎伝説も、福本にある山の白兎伝説も、それぞれの地域性や時代性を反映して形成され、残るべくして残った『白うさぎ』のお話なのである。」(「同前」)
 他に温泉をめぐる冨樫晃「ジオパークと温泉」、春日井秀「水害と伝説」、異形伝説をめぐる山口くるみ、瀬戸口真規、清野知子らの諸論稿がある。そして、わたしが本書で最も関心が惹かれたのは、浦島伝説をめぐる二つの論稿である。浦島伝説は、全国各地に横断していて、どこが伝説の始まりの場所かを特定することは難しい。暴論を承知でいえば、白兎伝説がそうであるならば、山陰海岸が最も相応しいような気がしてならない。
 「浦島太郎は日本の二〇数ヶ所の地域で、土地のさまざまな事物と結びついた伝説として、信じられる形で伝承されている。山陰海岸ジオパーク域内の京都府京丹後市網野町の浦島もその一つである。」(山田栄克「浦島伝説の記録をよむ」)、「網野町と海と、そして大陸との関わりの深さは、今でも海辺を歩くと容易に納得できる。夏の穏やかな釣溜に至る海上の道は、夕方歩くと飛沫がかかる程度であるが、冬には荒々しい波が押し寄せてくる。秋から冬になると地域の人が『ウラニシ』と呼ぶ強い暖流に乗って。寄せ物が海岸に運ばれてくる。」(北村規子「浦島伝説と日本海」)
 こうして、浦島伝説にふれながら、学生時代の友人の故郷が網野町だったことで、二度、訪れたことを思い出す。もう何十年も前のことである。あの時の網野町の風景が、あらためて、くっきりと浮かんできたのはいうまでもない。

(三弥井書店刊・18.7.5)

  • -
  • 08:00
  • -
  • -
  • by スポンサードリンク

Comment





   

PR

Calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< December 2018 >>

Archive

Recommend

Mobile

qrcode

Selected Entry

Comment

  • 「内」からの視線で震災以後を問う                              ――「復興」より「再生」の方が、被災地の人たちの明日への言葉として相応しいのではないか。
    佐藤竜一
  • 追悼・忌野清志郎
    魔笛
  • 映画芸術は今こそ回帰の時代を迎えつつある
    西井雅彦
  • 詩集『悪い神』を読む
    築山登美夫
  • 夏石番矢 世界俳句協会編『世界俳句2008 第4号』・評
    Ban'ya
  • 自らの在りように真摯に在り続けることの暗喩を
    竹ノ内
  • 自らの在りように真摯に在り続けることの暗喩を
    minagawa
  • 自らの在りように真摯に在り続けることの暗喩を
    Takenouchi
  • 寄席の世界に魅せられて・3
    神尾
  • 「理想」の可能性

Link

Profile

Search

Other

Powered

無料ブログ作成サービス JUGEM