比較的、新しい作品から渉猟していってみたい。まずは、短編集『男坂』(03.12刊)から。
 わたしにとって、いつものことながら、志水作品は読後、言いようのない余韻が残り、しばらくその状態を感受しつづけることを良しとしてきた。ほんとうは、このように、あれこれ言葉を連ねるのは、本意ではないが、このような場所があると、なにかを伝えたいという気持ちになってしまうこともまた確かなことだ。
 わたし自身、短篇という形態に親近感をもって接するといった読者ではない。ましてや、志水辰夫の読者としては、長い物語を読みたいと思っている。確かに、『いまひとたびの』で、志水辰夫の短篇世界の豊穣さに触れて、その後、志水作品の短篇世界に魅了されてはきたが、それでもやはり、『背いて故郷』や『飢えて狼』のような物語を求めてやまない。とはいえ、短篇だからといって、けっして断片のようなかたちで構成されているわけではない。そこでは、登場人物や背景を違えながらも、全体を通してみれば、連作短篇のように凝縮された物語をつくりあげているのだ。
 さて『男坂』は、これまでの作品集(そのことは、いずれ触れていくつもりだ)とは、いくらか雰囲気の違う要素がつめられているといっていい。「扇風機」の弘武、「再会」の高野聖、「あかねの客」の藤岡、いずれも本来なら忌み嫌われる像形(他の作者の作品であればということだ)であるにもかかわらず、志水の筆致にかかるとあまりにも〈哀しみ〉に満ちてくる。わたしの志水作品の読み方は、書かれていない多くのことを長い物語として、行間から読みとることだ。とすれば、本集に収められている「岬」は、志水辰夫の出自や亡くなった母(父は先の十五年戦争下での戦死者だ)のことを投影した作品として読みこむことができる。そして、なんといってもわたしは、その作品の終景にただ感動したということだけを、ほんとうは率直にいいたかっただけだ。



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